十和田湖

6話 六 疊石

620字 約1分 2021年6月10日 公開

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明くれば、九月一日也。三浦氏一族の二少年、宇樽部より來たる。織田氏を辭して、共に舟に乘り、追手といふ處に至り、和井内貞行氏の孵化場を見る。今は、孵化の時機にあらず。酒精漬の標本あり。卵より魚の形を成すまでの順序、精しく示さる。和井内氏は、カバチエポと稱する北海道の鱒をとりよせて、此處に養殖すること年あり。この湖の水、このカバチエポに適すと見えて、生長の速かなること、本元よりも優れり。和井内氏の名を付す。本土にこの鱒あるは、唯こゝのみなりとぞ。功により、緑授褒章を賜はる。われこの山上に來りてより、日々新鮮なる鱒に舌鼓うつ。多謝す、和井内氏の賜物也。

 舟を湖の中心に出す。浪、荒し。幾んど御倉山と花部山の中央とおぼしき處に、二大巖わづかに其の頭を露はして相竝ぶ。その間、凡そ二十間、下は、其の底を見ず。之を御門石と稱す。更に舟を進めて湖の東岸に到り、疊石を見る。東西十間、南北百間ばかりの大磐石、水面より高きこと、わづかに五六寸にして平らか也。なほ續きて、南にも、北にも、百間あまりは、水に沒することも五六寸にして平らか也。この巖上、數百千人を載せて餘りあり。洵に稀有の大磐石也。後にて聞けば、この附近に、碁盤石と稱する者、水面の下にあり。碁盤形を爲し、下の四隅に足さへありとぞ。造化の奇を弄する亦甚しい哉。

 薄暮、三浦氏の家にかへれば、江渡氏と春汀兄弟とはあらず。この朝、三本木方面さして山を下り、蔦温泉にてわれを待ちあはさむとする也。

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