3話 三
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野間はさびしいところだつた。海岸の漁村にしか過ぎなかつた。やがて私はその頼朝のやつて来た時に建てたといふ寺の山門の前に立つた。義朝の首を洗つたといふ血の池には、午後の日影がさしわたつて、いかにも血のやうな色をしてゐた。未だにその恨みが生きて漂つてゐるやうな心持を私に誘つた。
それに、あたりの荒廃してゐるさまが、何とも言はれないさびしさを私に感じさせた。寺の本堂もそのまゝださうだが、それもすつかり大破してゐる。あたりには松が風に鳴つて、かうしたシインの中に、『時』が無限に没却して行くさまをそれとなしに私に思はせた。
義朝の墓は五輪塔型であつた。そこには、この他に、織田信孝の墓や、平康頼の墓があつた。周囲の深い樹の間から、午後の日影がさし込んで、それが風に動いて、心も揺らぐやうな気がした。
ふと、その墓の上に一杯に小さな太刀が積んであるのに眼をとめた私は、
『何だね? これは?』
『それですか……』車夫は寄つて来て、
『これが、それ……お湯殿で御殺害なされた時に、木太刀でも一本あればと切歯して仰しやつた……。そのため、木太刀をさし上げて、願をかけると、何んな願ひごとでも成就するつて言ひ伝へてあるので御座います』
『へえ!』
私も不思議な気がした。
『木太刀を何処かで売つてゐるのかね!』
『え、庫裏にあります』
で、私はそこから少し離れた庫裏に行つた。成ほどそこには、木太刀が沢山あつた。縄で束ねて幾束も幾束も重ねられてあつた。私も一本十銭の奴を三本買つて、それに、私の名と子供達の名を書いて、そしてそれを墓の前に来て手向けた。殺されたあとで、さうした木太刀が何本あつたつて、しようがないやうな気がするけれども、しかし、さう思ふのが、人間の心だ……。さういふ風にやさしいのが人間の心だ……。