5話 第一、南球往航日記(ホンコン、カントン、マニラ紀行) 五、シナ人の迷信
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十四日、曇り(満月)。ヤソ教のいわゆるグッドフライデーなり。正午十二時、ホンコンを抜錨す。左に、カントンおよびホンコン市街にて目に触れたる迷信の二、三を付記すべし。シナ人は営利の念強く、福を祈ることはなはだし。街路に往々、福徳祠と名づくる小石室あり(台湾もまたしかり)、その中福神の像を安置す。その貌ややわが大黒、恵比須に似て、服装を異にす。その前に香花を捧ぐ。また、毎戸の前隅に聚宝碑と名づくる小石碑あり。その碑面に「来竜聚宝接引財神」と刻し、あるいは「門戸土地福神」と題し、その左右に「銀甕排山入、金船駕海来」(銀のかめは山をおしひらいて入り、金の船は海を渡って来たる)と記し、あるいはまた「金枝時発枝銀樹日開花」(金の枝は時に枝を生み、銀の樹は日々花を開く)と記し、あるいはまた「招財進宝、堆金積玉」(財宝を招き入れ、金玉をうずたかくつむ)とも記するあり。各商店の軒下に、「富客常臨、百福盈門、貨如輪転、其門如市、五福臨門、客似雲来、後来更好」(富裕の客がみえ、もろもろの福が門にみちて、貨財はどんどん回転し、その門前は市のように繁昌して、五つの福(長生・富・健康・道徳・天寿)が門にあつまり、客は雲のように来て、将来はさらによし)等の文字を記したる紙を貼付す。また、わが国の守り札のごときものを貼付せるあり。「文帝宝誕喜助金何輛、老福徳宮宝誕、天后聖母宝誕金何輛」と片紙に印刷したるものを貼付せるを見る。案ずるに、シナ人は金紙銀紙を神前において焼きて福を祈る、そのときにこの片紙を受けて帰るものならん。わが国の護摩札のごとし。また、街上に売卜者多し。わが浅草観音の門前のごとし。題するに「毎事卦資二仙」とあり。また、室内をうかがい見るに、あるいは観音の像をかけ、あるいは関帝を祭り、あるいは壁上に神字を刻したるものを崇拝す。カントンの寺院の前には乞食多く集まりて旅客を煩わす。ホンコンの人力はその色赤黒くして、おのずから一種の特色を有す。これを力車と呼ぶ。わが同胞のここに寄留せるもの約千人にして、寺院および学校の設備あり。ホンコンを出帆してより、わが船南東に向かいて進行するに、東北風に送られて少しく揺動す。しかれども、マニラ行の一等船客多数に入乗せるをもって、船中盛況を現す。